何……?
先輩の顔を見たくない。怖い。
だけど、無視することも出来なくて、目線を伏せたまま、ゆっくりと振り返る。
「…佳奈ちゃんってさ、俺の名前知ってる?」
「え……」
唐突すぎる質問に、思わず目線を上げた。
そして目に映った先輩の表情は…
物寂しげな、笑顔。
「っ−…」
それを見た瞬間、胸がぎゅっと苦しくなって、泣きそうになった。
やだ……そんな顔、やだ…。
「知らないでしょ」
私は何も答えていないのに、先輩は笑ってそう言うと、今度こそ背中を向けて、立ち去った。
藤原先輩の……名前。
それくらい知ってるよ…と、頭の中に名前を浮かべようとする。
だけど、どれだけ必死に思い出そうとしても、浮かんでこない。
「な…んで…」
“知らない”の−…?
最後に見せた先輩の笑顔と、名前を知らないという事実が、胸を押し潰す。
苦しい……痛い…痛い。
でも、
一番痛いのは私じゃなく、藤原先輩。
私…何してんの?
「別れたい」と言って、先輩が快く受け入れてくれるとでも思っていたんだろうか。



