「数学の教科書忘れたから、借りに」
それでドアの前に居たわけか…と、納得する。
「…マジでチャイム鳴るから、離してくんない?」
「っ…!!」
自分がまだブレザーを掴んでいたことに、言われて気付いて、
「だったら早く行けばっ!」
焦った私は、突き放すように手を離した。
「引き止めたの、檜山だろ!?」
本当に時間がなく、そのまま教室を出ていく翔に、ベーっと舌を出す。
姿が見えなくなると、ストンと肩の力が抜けた。
「何よ…」
何だか泣きたいのは、自己嫌悪。
翔を前にすると、言いたいことが言えなくなる自分が嫌だし、
何より、“期待”していた自分に失望した。
藤原先輩のこともあって、苦しいくらい悩んでいるはずなのに、
翔が“彼女”として、意識してくれるのを、心の奥で期待していた。
でも、翔は何とも思っていないみたいで、それにムカついたなんて……更に最低。
ドサッと、荷物を自分の机の上に落として、倒れ込むように椅子に座った。
そして、携帯を開く。
新着メールも着信も、何も映されていないディスプレイに、ホッとする。



