13センチの片想い。私とアイツの恋の距離


最悪−…。

自分の心臓の鼓動が、強すぎて気持ち悪い。

こんなタイミングって…ない。


目を見開いて固まる私に、翔は怠そうに「おはよ」と、言った。

「おは…よ…」

挨拶という、当たり前のことすら忘れるくらい、私は余裕を無くしていて、

「そこどいてくんない?檜山みたいな奴に立たれてると、出れないんだけど」
「あ……ごめん」

いつもの、翔の喧嘩を売る言葉にさえも、気付かない。

「…何かあった?」

素直に謝って、ドアの前から避ける私を、さすがに不審に思ったのだろう、翔は尋ねるけど、

「いや…別に…」

“意識してる”なんて、とても言えない。

「ふーん…」

一方、翔は全くいつもと変わらぬ様子で、私の横を通り過ぎようとする。

何で…普通でいられるの?

「…ちょっと待ってよ!」

何だか腹が立った私は、衝動的に翔のブレザーを掴んだ。

「何?」
「あ……」

振り向いて、私を真っ直ぐ見る翔に、顔が熱くなる。

自分で引き止めておきながら…困る。

「…どこ行くの?チャイム鳴るよ?」

平然を装って、必死な思いで口にしたのは、やっぱり言いたいことじゃない。