驚いた私は、頬にやっていた手を瞬時に下げて、隠した。
「今日歯医者なんだろ?」
「あっ!」
「ほら、忘れてると思った」
翔の予想通り、言われるまで歯医者のことを、すっかり忘れてしまっていた私。
「急げよ」
「あ…うん」
頷きこそしたものの、歯医者に行く気なんて、もう残ってはいない。
頭の中は、翔のことでいっぱいで…確信の持てない関係に、
“本当に付き合うの?”
そう尋ねたくて、しょうがない。
だけど、聞いてしまったら「そんなに言うならやめる」と、言われてしまいそうで、
「じゃあ」
また背を向ける翔を、ただ「じゃあね」と、見送った。
「現実−…?」
信じられない。
頭が痛い。
胸が苦しい。
階段に座ったままの私は、自分の両膝に額を当てるように、顔を落とす。
落ち着け…落ち着け。
とりあえず、今しなきゃいけないこと…しなきゃ。
これから、歯医者に行く気にはなれないけど、予約を取っていたから、きっと迷惑をかけている。
謝罪の電話…これが、私が今すぐしなければならないことで、ポケットから携帯を取り出した。



