「何ですか?」
先輩より前に出てしまった私は、振り返って聞く。
「俺が居ない間にさ…」
月に掛かっていた雲が、通り過ぎて行っているのだろうか。だんだんと照らされていく先輩の顔。
何か考えるかのように、言葉に詰まった先輩は…
目を細めて、悲しそうな顔をしていた。
だけど、
「いや!やっぱ何でもない!」
月の光が全体に当たると同じタイミングで、先輩の表情は笑顔に変わった。
「…え。何なんですか?」
あんな顔を見せられたら、気にしないでいられるわけなくて、私は再び問い掛けるけど、
「何でもないよ。早く帰ろ、親が心配するよ」
私の頭をポンポンッと軽く叩くように撫でて、歩き出した。
「気になるじゃないですか、教えて下さい!」
小走りで追い掛けて、先輩の隣に並ぶ。
「んー、浮気しちゃダメってことかな」
冗談のように先輩が笑うから、私は“違う”、そう思って「えー」と不満そうに声を上げた。
そんな私を見下ろして、先輩は笑うだけで。
でも後々考えれば、これが本心だったんだと思う。
藤原先輩が修学旅行中に起こること、知らないのは私だけ-…。



