13センチの片想い。私とアイツの恋の距離


そんなわけで、バレー部内では公認となっているのだけど、他人に気を使わせたくなくて、こうして玄関で待っている。

「-…」

静かな空間に薄暗い光、そして何より疲れた体が睡魔を連れて来た。

私は両膝を抱えて、「少しだけ」と目を閉じた。


浅い眠りは、ふわふわと夢と現実の中を行き来する。
断片的に誰かの顔、話し声が浮かんでは通り過ぎる。

でも、それが誰なのかは分からない…。


「-…佳奈ちゃん?」

肩に触れられた感触と、呼ばれた名前に反応して、跳び起きると、

「ごめん、遅くなって。帰ろ?」

目の前には穏やかに笑う先輩が居て、何だか少し恥ずかしくて、俯いて頷いた。


外に出れば、夜風はすっかり冷たくて、結構寒い。
藤原先輩は私の歩幅に合わせつつ、私の家へと続く道を迷わず進む。

初め、どうして知っているんだろうと疑問に思ったけど、よくよく考えてみると、付き合う前に一度家まで送って貰った事があった。
でもそれは、あの夏祭りの夜で、時間は経っている。

「先輩って物覚え良いですか?」
「うーん…悪くはないかもね」

苦笑しながら言う姿に、もしかしたら頭良いのかも、なんて勝手に想像する。