「明日、そこに戻してくれれば良いので」
言いながら先輩がちらっと見たのは、例の傘置き場。
「じゃあ」
「え、あっ!ちょっと…」
わたしの止める声も聞かず、先輩は呼ばれた方へと行ってしまった。
「今の…噂の岡田くんの彼女だよね?」
「…うん」
頷く心境は複雑だけど、友達は翔に対するわたしの気持ちを、知らないから仕方ない。
「初めて見たかも。本当にかわいい感じの人だね」
津田先輩が女友達と二人並んで、玄関を後にする姿がすぐに目に入った。
小さなピンク色の折りたたみ傘に、きちんと体が入っていて、わたしには絶対小さい傘が、先輩にはちょうど良い大きさ。
今日は翔と一緒じゃないんだ…と思いながら、小さな後ろ姿を見つめる。
「それに、優しい人だね」
友達の言った言葉にぴくりと反応して、わたしは手の中に残された傘に視線を変えた。
雨の日に傘を貸してくれるなんて、ベタすぎる優しさ。
だけど…実際、見知らぬ人に貸してくれる人なんて、どのくらい居るだろう。
「うん…」
わたしはただ、頷くだけだった。



