使っていないように見えても、使っていないという根拠は、どこにもない。
早く帰りたいけど、人の物を勝手に使ってまで、帰ろうとは思わない。
「佳奈ってば真面目ー。じゃあ、あたしも待とうかな」
「傘ある人は帰りなさい。遅くなるよ」
「えー」
ふざけるように友達の背中を押して、そんな他愛もない会話をしている途中、
「あのー…」
誰かに声を掛けられて、わたしはその声の方へと振り向いた。
「え…」
呼び掛けた人の顔が目に入ったその瞬間、わたしは思わず声に出すくらい、ひどく驚いた。
だって、目の前に居たのは…津田先輩。
何で…。
ドクン、ドクンと、大きく鳴る心臓が…痛い。
そんなわたしとは対照的に、こっちを見上げる先輩は、ふっと微笑んだ。
「良かったらこれ、使って下さい」
そう言って差し出されたのは、ピンクの水玉模様の傘。
「あたし、折りたたみも持ってるんで」
「や、でも…」
「苺ー、何やってんのー?」
下駄箱の裏から聞こえた呼ぶ声に、津田先輩は「今行く!」と答えると、断ろうとしていたわたしの手を取って、傘を持たせた。



