☆翔side☆
「母さん!何で起こしてくれないんだよっ!」
朝-…。
リビングのドアを開けるなり、俺は声を張り上げた。
「あっ…ごめん」
朝食を並べる母さんは、おっとりとした口調で謝る。
「朝ごはんは?」
母さんは手に持った、こんがりと焼けた食パンを見ながら聞いた。
「悪いけど俺、もう行くから」
制服のネクタイを締めながら、仏壇の前に座る。
置かれているのは優しく笑う父さんの遺影。
父さんは俺が小学生に上がる前に、事故で帰らぬ人となった。
「行ってきます」
両手を合わせて挨拶する。
目を開けて父さんに笑い返すと、俺はすぐに立ち上がった。
「気をつけてね」
そう言って静かに笑う母さん。
母さんの手に持ったパンを一口かじって俺は頷いた。
“気をつけて”は、母さんの口癖。
「母さんも遅刻すんなよ」
「はい」
にっこり笑って返事する姿は、どっちが親だか分からなくさせる。
「あっ、やべっ!行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
時計を見て焦った俺は、急いで家を出た。



