13センチの片想い。私とアイツの恋の距離


☆翔side☆


「母さん!何で起こしてくれないんだよっ!」

朝-…。

リビングのドアを開けるなり、俺は声を張り上げた。

「あっ…ごめん」

朝食を並べる母さんは、おっとりとした口調で謝る。

「朝ごはんは?」

母さんは手に持った、こんがりと焼けた食パンを見ながら聞いた。

「悪いけど俺、もう行くから」

制服のネクタイを締めながら、仏壇の前に座る。

置かれているのは優しく笑う父さんの遺影。
父さんは俺が小学生に上がる前に、事故で帰らぬ人となった。

「行ってきます」

両手を合わせて挨拶する。
目を開けて父さんに笑い返すと、俺はすぐに立ち上がった。

「気をつけてね」

そう言って静かに笑う母さん。
母さんの手に持ったパンを一口かじって俺は頷いた。
“気をつけて”は、母さんの口癖。

「母さんも遅刻すんなよ」
「はい」

にっこり笑って返事する姿は、どっちが親だか分からなくさせる。

「あっ、やべっ!行ってきます!」
「行ってらっしゃい」

時計を見て焦った俺は、急いで家を出た。