「実はぶつかった時、中身見えたんだ。溶けるの知ってて引き止めた。ごめんね」
「…いえ」
藤原先輩に引き止められなくても、ぶつかる前にはアイスの事なんて綺麗さっぱり忘れていた。
だから、きっとどっちにしろ溶けていたし…。
「気にしな」
「買い直して来るね」
「えっ…」
私の言葉を遮って、藤原先輩はベンチから立ち上がった。
「そんな…いいですよ!自分で買いますから!」
慌てて私も立ち上がると、
「いーからいーから。すぐ買って来るから座って待ってて」
藤原先輩は私の両肩を押さえて、もう一度ベンチに座らせた。
「自分の気持ち、押し殺しちゃダメだよ」
肩を持たれたまま、小さな声で言われた言葉。意味が分からなくて問い掛けるように首を傾げる。
「赤くなっても、それで冷やせば大丈夫だから」
藤原先輩は私が手にしている溶けたアイスを一回見て、ニコッと笑うと、肩から手を離した。
「………」
呆然とアイスを見つめる。
耳には小さくジャリジャリと、土を踏む音。
買い直してもらうつもりなんてないのに、藤原先輩が離れて行くのを感じながらも、顔を上げられない。



