「姫ならば…思い出せるのではないでしょうか?」

「え…?」

「今の姫が覚えているのは、守ると言ってくれた言葉だけなのでしょう?」

「え…ええ…。」

「姫はかつて…全ての記憶と引き換えにある魔法を使いました。」

「魔法を…あたしが…?」

「そうです。だから私を含む多くの人間は救われたのです。
世界は闇に満ちていました。姫が魔法を使うまでは…。」

「闇に…。」

「姫は一人で戦っていたわけではありません。
姫には5人の優秀な仲間がおりました。」

「仲間が…。」

「姫を一番に守ろうとしてくれた人が、その優秀な仲間の中におります。
姫も彼をとても大切に想っていたのだと、私は信じています。」

「あたしも…想っていた…?」

「そうです。
彼は姫をとても大切に想っています。それこそ…今のあなたが自分を覚えていないことで自分を見失ってしまいそうになるほど。
そして…姫、あなた自身も記憶に別れを告げる時に涙してしまうほどに…彼を想っていました。
記憶は確かに…鎖として使われています。
でも…姫の強い想いは奇跡を起こし続けてきました。
今度も奇跡が起こることを願っております。」

「彼…。」

「…出過ぎたことを申してしまい、大変申し訳ございません。
さぞ…混乱させてしまったかと思います。
ですが、もう見ていられなくて…。」

「見ていられない?誰を?」

「…その答えは姫が見つけてください。
朝食へ向かいましょう。」


瑠香に促されるままに、あたしは広間に入っていった。




「…痛々しいのです…とても…。『彼が』。」