「主は、命に代えてでも、盗られた刀を取り戻して来い、とおっしゃいましたが……
 わたしの力では到底、そんな化け物のごとき怪僧には、勝てません。
 どうせ、失う命なら。
 あなたに賭けてみようと思ったのです」

「武芸に秀でた者が望みなら。
 何も我を選ばずとも、もっと強い漢(おとこ)がいただろうに」

「いいえ、いいえ。
 京の都を隅々探しましたが。
 あなたよりも強い方には、とうとう巡り合えませんでした」

「ふうん」

 稚児に言われて、気を良くしたのか。

 それとも、照れたのか。

 わざと鼻をならして、青年は言った。

「ま、どちらにしろ、我にとっても悪くない話だ。
 荒っぽい事は、嫌いではないし。
 なにしろ、そなたは、掛け値なしの上玉だから」

 そう言いながら。

 肩を抱きしめようと迫る青年を、寸前でかわして。

 稚児は、声を小さくあげた。

「おやめください。
 太刀が先です」

「ちえっ」

 残念そうに舌打ちをする青年に、稚児は軽く頭をさげると、再び声をあげた。

「……どうやら、目的の漢が来たようです……!」