「とにかくね。お母さんが言いたいのは。
ちゃんと結婚する覚悟があるってのじゃダメなの。

いい?

女の子にとって、子供を堕ろすことが、産むってことが、どんだけの負担かを考えてほしいの」


初めて、母親が目を潤ませているのを見た。

大事なことを思い出すように、噛み締めるように、母親は言った。


「望まれて、愛されて、祝福されて、子供は生まれてこなきゃって、お母さんは思うの。

ぶっちゃけ、生まれちゃえばどうにでもなんのよ。

生活するうちに親は親になんの。

苦労はそりゃするけど、幸せにだってなれんの。

でもさ。

傷ついて、苦しんでも命の尊さは変わらないじゃない。

なら、幸せな方がいい。

少なくともお母さんは、恭介や、恭介の愛した子や、その子の家族が、みんなで祝福して赤ちゃんを迎えたい」


俺が生まれるとき、母親と祖母との間で揉めた、という話を、ふと思い出した。

きっと、今がどんなに幸せでも、そんときのしこりを忘れることはないんだろう…


「それができるって自信を持てるまでは、必要でしょ、それ」


いきなり、右手に乗せた箱が、重くなった気がした。

たぶん、不公平なぐらいに、この人は俺の母親で。

俺の幸せってものを、誰よりも考えてる、と。

信じられる重みかもしれん…と思う。


「大事にしなさいね、彼女もコンドームも」


仕方なく頷いて、それをカバンにしまった。

いっぱい話したら喉が乾いた、とかなんとか言って、母親はキッチンへ迎う。

その途中ではたっと立ち止まり振り返った。


「そういえば、恭介って彼女いたんだっけ?」


…どうせ、彼女いない歴が歳の数だよ。


不貞腐れた俺をコロコロ笑って、母親はキッチンに消えた。



どうやら、まだアイツのお世話になるのは先かもしれん。。