侍たちには与えられなかったそれが、どうして私にだけ与えられたのか。

天狗のナノマシンを勝手に体に入れられたというのが本当は何を示していたのか。

この時の私には何も知らされなかった。


「私は……戻ることができるのですか?」


金色になってしまった己の髪に触りながら、私はこわごわ朔太郎を見上げた。

朔太郎が微笑んで──どうしてなのか、影時が顔を背けた。


「お前が望めばな。お前には家で待っている者もいよう」


その言葉にはズキンと胸に痛みが広がるのを感じながら、私はこれまで己が生きてきた作られた世界の記憶を振り返った。

「もしも……私がこのまま元の人生に戻れば──朔様たちにお会いすることはこの先、もうできないのでしょうか」

桃源郷に迷い込んだ男は、その後の人生で二度とその土地を見つけることができなかった。

「ああ、そうなる」

朔太郎が頷いた。

ならば私が今、立たされているこの選択の場は──

「私が人生で、ただ一度しか足を踏み入れることのできぬ場所なのですね」

私は微笑んだ。

「そうだな」

私とは異なる世界を生きてきた青年もまた、不思議な微笑を浮かべていた。

「朔様は」

私はその金色の瞳に尋ねた。

「どうして天狗の掟に背いてまで、私の命を救ってくださったのですか?」