「彼女の意志は……どうなります?」

やがて主の俺に言うべき言葉を拾い上げたか、烏天狗はやっと冷静な口調でくちばしを開いた。

「この娘、家族や帰るべき家とてあるでしょうに。
勝手に妖怪変化の仲間にして、この娘の人としての人生を奪うおつもりか」

さすがにそれは、この俺にとっても辛辣な言葉であった。

「だから、彼女にも選択肢を与える。もしも彼女が人としての人生を望むならば──」

俺は静かに目を閉じた。

十年、二十年ではない長いつき合いである。
影時も俺の言わんとした覚悟を感じ取ったらしく、息を呑む気配が伝わってきた。

「何故、このような人間の娘一人にそこまで……」

不可解そう、かつ
不愉快そうに訊いてきた烏天狗のその問いに、俺はぼうっと鈴華を見つめたまま、うむ、と頷いた。


「俺もよくわからんのだが影時、こういうのを──『恋』と言うのかな?」


ぱかっと、貝柱を失ったホタテの如くに、
影時のくちばしが開いたまま閉じなくなった。


鈴華が身じろぎをし、うっすらと瞼が開く。

俺は愛らしいその顔を見下ろして、さて彼女に何から説明するべきだろうかと思案に暮れた。