キイ! と甲高く一声鳴き、烏天狗が動かなくなる。


「鈴! 鈴! しっかりしろ!」

天狗の朔太郎に抱きかかえられて、私は震える手を彼の頬に伸ばした。

「朔様……朔様も、お怪我……を」

「馬鹿者!」

金色の瞳が、私を見下ろして苦悩に歪んだ。

「俺は天狗だぞ! 何故庇った!?」

そう怒鳴る彼の背は、何か光を放っているように見えて──

「このような太刀傷など、受けても俺は死なんのだ!
すぐにこのとおり治ってしまうのだ!
それを──庇うなど、なんと馬鹿な真似を──」

「まあ」と私は微笑んだ。

「それは、よう……ございました……」

ほっとして、この天狗の頬に伸ばしていた手から力が抜けた。

滑り落ちる手を、彼が握りしめた。


「朔様……」


斬られた胸が熱い。痛い。
燃えるようだ。
なのに体は冷えていく気がする。

私は喘ぎながら、
やっと見つけた愛しい人の名を必死に呼んだ。


「朔様が……佐久太郎……なのでしょう?」