朔太郎が金の輝きでもって睨み据え、羽団扇を真っ直ぐ向けるその相手は、

猛禽の如き金の目玉をぎょろつかせ、
大きなくちばしを持ち、
背には翼を生やし、
両の手には鋭いかぎ爪を備えた、

半分人で、半分鳥のような姿をした山伏の格好の化け物だった。

「烏天狗」と、たった今朔太郎の口から放たれた言葉を反芻して、私は話に聞くとおりの恐ろしい姿をしたその化け物をしげしげと眺めた。

「魔王格が一人、朔太郎坊か」

夜小丸と呼ばれた烏天狗は低い声でそう呟くと、
朔太郎に抱えられている私を見て、鳥のような仕草で不思議そうに首を傾げて、

「……何故に、女連れ?」

「頼むから訊くな。俺にもどうしてこうなったのかさっぱりわからん」

朔太郎が長い爪の生えた指でこめかみを押さえた。

烏天狗の夜小丸は、きょとりきょとりと不気味に首を動かしていたが、

やがて周囲に立った他の人影に「二人とも殺してしまえ」と命じた。


カチャリと、聞き慣れた音がして見ると、烏天狗の周りには音を立てて刀を構える五、六人の侍の姿があった。

「俺から離れるな」

朔太郎が短く囁いて私の肩から手を離し、羽団扇を帯に差して、代わりに腰の刀を引き抜いた。

「言っておくが」

と、烏天狗の夜小丸がそれを見て口を──否、くちばしを開いた。

「こやつらはただの人間の侍だぞ」

「心得ている」

朔太郎が頷いた瞬間、裂帛の気合いとともに刀を振りかざして侍が斬りかかってきた。


朔太郎は私を後ろに引き込み、
涼しい顔でその刃をあっさりと弾いて、峰打ちにする。


ほぼ同時に──


キイ、と一声甲高い鳴き声を発し、烏天狗が翼を打って空へと舞い上がった。

そのまま背を向け、一目散に逃げて行こうとする。