幼い頃、私の家族はいつも一緒だった。


穀物を扱う商いに精を出しながらも、常に父様は家族との時間を大切にしてくれて、母様や私たち兄妹はそんな父様を支えた。

貧しい小さな家は窮屈だったけれど、どこにいても家族の姿があって、私は己の家が大好きだった。


しかし少しずつ商いが成功し、父様は家を空けることが多くなった。

やがて江戸に店を構えるようになると、
父様は商いに、母様は奉公人たちを仕切るのに忙しくて、家族の時間は減ってゆき──


そして旗本株を買って武家の身分を手に入れて、家族は共に食事をとることもなくなった。


私は様々な作法や嗜みを身につけるため、お稽古や習い事に出され、兄様たちは勉学に必死で──

がらんと広いばかりの屋敷の中では、互いに顔を合わせることすらあまりない。


そこに家族の気配はしていても、姿は見えぬ。


私は冷たい己の家が嫌いになった。