少し苦しそうに見える表情に、碧はやっぱり言うんじゃなかったと後悔した。
特に確証のある訳でもない他人の心の奥底など、これまた第三者の自分が口を挟む事ではなかったのだ。


「なぁんて。冗談だよ。何かお前見てて、からかってみたくなっただけ。そんな事ある訳ないだろ?」


笑いながら立ち上がると冷蔵庫を開け、水のペットボトルを取り出して飲み始めた。


「年上をからかうなよ」


苦笑いを浮かべながら奈桜も冷蔵庫から同じように水のペットボトルを取り出して、ゴクゴク飲み始める。


「オレって鈍いのか?」


うつ向き気味に奈桜が聞く。
こう聞く場合、大抵は否定してくれる事を期待しているだろう。


「いや…、まぁ……、そのままでいいんじゃない?」


見つめあった状態で数秒の沈黙が流れた。
お互いがちょっと不気味な作り笑いを浮かべ始めた時、玄関のチャイムが鳴った。