「…ったく!マスコミってやつは…」


20歳代後半に見える女性が、モデル風美女が1人で座っているテーブルの席についた。


「どうしたの?機嫌悪いわね」


彼女を見てクスッと笑いながら、その美女は読んでいた本をバッグに仕舞う。


「だって…。つい、ちょっと前までマスコミは梓さんの帰国の話題で一色だったんですよ!それが……一晩で一転!今はどの局も、どのスポーツ新聞も、『七海!七海!』。梓さんの事なんてどこも扱ってないんですよ。映画の話、飛んじゃってるんです。すごく大きなプロジェクトなのに…。あんな、どこにいたのか分からないような子…」


1人で怒っているのは、奈桜の元カノで女優の水無瀬 梓のマネージャー、青木。
今、梓の芸能事務所では今度の映画の売り込みに必死になっている。
こんなにあっさりと他の話題に移られたのでは、梓の話はすぐに忘れられてしまう。
プロモーションに大枚をはたいているというのに。


「そんな言い方良くないわよ。マスコミなんてそんなものでしょ?」


相変わらずの落ち着いた話し方。
フワ~っと香る甘い果実のような香水が、梓をよりオンナにしている。