パパはアイドル♪ ~奈桜クンの憂鬱~

「母さん…」


「それとね、悪いんだけど、すぐに行きたいわ。奈桜の気持ちが変わらないうちに。こんなチャンス、滅多にないわ。桜ちゃんのパスポート、あったわよね?あっ、お金、いくら出してくれる?どうせ今日も遅いんでしょ?立て替えとくから。今から急いで旅行会社に行ってくるわ。あぁ…お父さんに電話しなきゃ。休めるかしら?」


電話の向こうの優子の声がはしゃいでいる。
奈桜が頼もうとしていた事を優子が全て先に言ってくれた。
もう頼む事がない。
おそらく勘のいい優子が全てを察知したのだと奈桜は思った。


「母さん、ありがとう…」


奈桜の静かな声に、優子は予感が的中した事を確信した。


「何よ。礼を言うのはお母さんの方でしょ?ほら、仕事の途中でしょ?桜ちゃんの事は心配しなくていいから。大丈夫。あっ、マカデミアナッツのチョコレート、買って来るわね」



電話が切れた後、奈桜はフッと笑って濃紺の夜空を見上げた。
子供の頃と輝きはちっとも変わっていない。