「ただいま…」
奈桜は出来るだけ静かにドアを閉める。
「お帰りなさい」
音に気付いた奈桜の母、優子が桜の部屋から出て来た。
「ごめん。また遅くなった」
時計の針は午前3時を少し回っている。
「いいわよ。仕事なんだから。桜ちゃんと寝てたし。それより体は大丈夫なの?毎日、寝る間もないじゃない」
言いながら台所へ向かい、サッと冷たい麦茶を入れる。
「寝てるよ。ちゃんと」
奈桜は出された麦茶を一気に喉に流し込むと、ソファーに横になった。
「あのね、疲れてるとこ悪いんだけど。言っておいた方がいい事があって」
奈桜は「うん」と言いながらゆっくりと瞼を閉じて行く。
いつもならリハーサル後の心地良い疲れとともに眠りにつくのだが、今日はただ体が重く、目を開けている事さえ辛かった。
アイボリーの、最近ベッド代わりになっているソファーは少しずつ奈桜の疲れた体を沈めて行く。

