結麻が怪我をしてしまい、俺は申し訳ない気持ちで一杯だった。だから少しでも結麻を喜ばせたくて、友人から聞いたとっておきの綺麗な場所へ連れて行こうと思った。二人でそこへ行った時は、綺麗な景色よりも結麻の方がずっと綺麗に思えたものだ。それだけ俺は結麻に夢中になる一方だったのかもしれない。

 温泉から帰っても、すぐに結麻に会いたくなり、結麻の二十四時間全てを知りたかった。だから俺はこっそり結麻の家の側へ行き、暗い道路から部屋の明かりを見つめる。その時、携帯に結麻から着信があった。俺は身体がビクッとして慌てたものだ。もちろん電話には出られない。もし俺がこっそり結麻の家の前にいるなんてことを知られたら、絶対に嫌われるだろう。携帯をバイブ設定にしていたけれど、こんな時は一瞬ビクっとする。

 それからも時々だけれど、俺は結麻に内緒で遠くから結麻の部屋の明かりを見つめていた。電気が消えるのを確認すると、結麻がベッドに入った姿を想像出来て安心する。夢の中に俺は出てくるだろうか。そんなことを考えながら家路に着く。雨や雪の日は、寒いという感覚すらなかった。それだけ夢中で結麻を見つめていたのだから麻痺していたのかもしれない。まるでストーカーのようだと自分でも分かっていたけれど、十三歳から結麻一筋で生きてきた俺は、こんな不器用な愛し方しか出来なかったんだ。