ふと隣に視線をずらすと、結麻は心配そうに見ている。なるべく安心させるように答えたけれど、彼女の笑顔は消えていた。

 俺は云いづらかったけれども、昔美久に告白され振ったことを結麻に話すことにした。すると、結麻は難しい表情をして何か考えている様子だった。

 美久は、俺に振られたことを結麻には話していなかったということだろうか……。それに、美久は結麻に対してライバル心があるのかもしれない。俺はそんなふうに想像の網を広げた。

 俺は、美久を信用しない方がいいと結麻に伝えたけれど、その時、結麻の表情は、美久のことで他に何か思い当たることでもあるような、そんな表情に見えた。でもこれ以上美久の話題を出すことは結麻を傷つけるような気がして、俺は明るい話題に変えることにした。


 帰り、暗い表情をしている結麻を独りにしたくなかったので、少しでも一緒にいようと思った俺は、結麻を送って行くことにした。

 もっと一緒にいたいという気持ちが溢れ、帰りたくない気持ちで一杯になる。ずっと抱きしめて、他の誰かに傷つけられることから守りたい。そんなことばかり考えてしまう。

 結麻の家の前に到着しても、俺は何度も何度も振り返った。結麻は俺の背中を見送ってくれている。

 今思えばこの時から、俺は結麻と結婚したいと強く思い始めたのかもしれない。そして、俺には結麻が全てになっていた――。