どのくらい時計のカチカチという音だけを聴いていただろうか。


「俺さ、結麻に告ったよ」


 突然隼人の言葉が響く。

 その瞬間、俺の心臓は鼓動を速め、隼人の言葉が何度も頭の中で繰り返される。隼人が彼女と付き合うことになったのではないかと不安の波に押しつぶされそうになり、冷や汗が流れた。けれども次の言葉で俺は心底安堵し、「な~んだ」という言葉を押し殺した。


「でも、振られたんだ」


 隼人は低い声でそう云うと俯いた。


「まぁ、そんな時もあるわな。俺は今の彼女と別れれば、また次の出逢いがあるって思うしさ」


 女癖の悪い今西は、隼人を元気付けようと明るく振舞ったのだけれど、隼人は首を振った。


「いや、俺諦めるつもりはないよ。結麻ほど良い女はいね~。友達関係を続けてきて分かったことだが、結麻は外見も中身も綺麗なんだ。俺は結麻以上に好きになれる女とはもう出逢えね~って思う」


 いつになく真剣な隼人に、俺はだんだん自分が情けなく思えた。同時に羨ましくも思う。ずっと思っているだけで、前に進もうとしていない自分……。隼人は自分の気持ちに正直に行動しているし、転んでも立ち上がる。それに比べて俺は……こんな俺じゃ、結麻と逢えたとしても好きになんてなってもらえないよな。

 そんなふうに、俺は自己嫌悪の渦に呑まれていた。