「もうずっと前でさ…俺が5歳くらいのとき。突然…俺達を置いて出てった」
切なそうに笑う辰志を見ると、いたたまれなくなって、私は知らぬ間に眉を寄せていた。
「べつに…憎んではねぇけどな。ははっ…きっと色んな理由があるんだと思ってる」
本当に…すごい。
普通なら、憎んでもおかしくないのに…
「まぁ…おじさんの会社は本当はお袋の会社でさ、今はおじさんが後を継いでんだ。だから…おじさんとおばさんには、しきれねーくらい感謝してる」
辰志は、優しく目を細めた。
「…捜そう…とは、思わないの?」
「今は思わねぇ。でも、巳子のことを考えると…いずれあわせてやりてぇと思ってる」
辰志の目からは、強い意志が見て取れた。
それ以上私は何も言えなかった。
いや…言わなくていいと思った。
辰志は私にそう感じさせるほど、前を真っ直ぐ見ていた。


