秀明は肩で息をしている。服はところどころに異質な液体で汚れていた。
妖怪の血だ。どす黒い、血で汚れていた。

「陽は、どうしている?」

「……。話す事はない」

振り切る冬矢の腕を掴んで引きとめる。だが冬矢の目は秀明を見ていない。
どこか遠くを見ていて、秀明は眉を寄せた。

「だったら俺を連れて行け! お前一人で行かせるか!」

「……兄貴、無理だ」

そういって、冬矢は口元で笑う。そして秀明の体を抱きしめた。
冬矢の体から冷気が放たれ秀明を包み込む。体の外側だけが、薄く氷に覆われた。

「死ぬことはない……。だけど、しばらくは動かない」

「冬矢! なんてことをッ!」

秀明を凍らせて、冬矢は店を出ようとする。洋子の声が突き刺さる
それでも冬矢は目線を向け、一言残すだけ。

「命令だ。関わるな」

冬矢は夜の闇へと、消えた。