「冬兄! 帰って来たの!?」

冬矢は店に戻っていた。
その姿を見て、喜びに飛び上がるすずめに目もくれず店内に入る。

「冬……兄?」

おかしい。すぐにすずめも店内に戻る。
冬矢は喜ぶ従業員に目線をやらない。彼の目に彼らは映っていないのかもしれない。
わき目も振らず、階段を上った。

「何が起きたの? 冬兄」

「……キレてる、か?」

「わかんない。恭子さん、どう思う?」

こそこそと彼らは話始める。こそこそと始まる会話。ちらりと、恭子に話をふる。
けど、

「恭子さん? 恭子さーん……」

いなかった。烏丸はあたりを見回す。もしかしてと階段を駆け上がる。すずめと洋子もそれに続く。


「行くの? ……一人で」

「百鬼夜行は行わない。まだ百鬼は、あんたの物だからな」

冬矢の部屋に恭子はいた。恭子は冬矢に語りかける。だが冬矢は恭子にも目線を向けず、ただ支度を始める。押し入れから長年袖を通していなかった着物をとる。

「もう冬矢の物同然なのに?」

「正式に受け継いでいない。……来るなよ」

恭子の言葉に、目もくれない。そして彼は、押し入れの奥に手を伸ばし、ある物をとる。

「妖刀『氷雪丸』……!」

布にくるまれてはいるが、その奥にある業物は大きな禍々しい冷気を漂わせている。
冬矢が秀明に渡された刀。陰陽師と妖怪の力を用いて作られた刀。父と母の共作。

「これは、俺の戦いだ」

「…………」

冬矢はふすまを開け、ふすまの前で聞き耳を立てている三人を見下ろした。
だが、それも一瞬のことで、階段を下り始める。


「……!」

「冬矢、陽はどうしている?」

店外へ出ようとした冬矢の前に、今度は秀明が立っていた。