「百鬼夜行が目撃された」

「は?」

その頃、喫茶『魑魅魍魎』で久しぶりに働いている恭子から聞かされたことに冬矢は呆けていた。昨夜に目撃された百鬼夜行。冬矢は眼を丸め、まじまじと恭子を見つめる。

「変な冗談はよせ……」

「強大な妖気の集まり。山妖怪で構成されている」

「それこそ、変な冗談はよせ」

さらに口にした事実に、冬矢は先ほど以上に動揺し、今度は見つめるでなく、にらんだ。何を言い出すのか、信じられないという顔で睨まれた恭子はただ瞬いている。

「事実。……お客、こないね」

「常連ばっかりバタバタ死なれたらそりゃ、ビビって来ないだろ。それより恭子……」

だがそれが事実だと伝え、そのまま店を見渡して、客が少なくガラ空きの様子は、以前とは180度違う。

「詳しくは知らない。だけど、多くの人間に見られたから、注意はするべき」

「あ、お、おぉ………」

話を勝手に変えられ、少々イラついた冬矢をよそに、恭子はひょうひょうと答えてみせ、もっともな事を突き付けるので、冬矢も無理やり丸めこまれた。

「それじゃ、休む」

「あ、おい!」

丸めこまれてしまえば、恭子は客が来ないのをいいことに、すぐに存在を消してしまう。冬矢が止めるのも聞かず、存在を消されてしまえば、もう呆れるしかない。

「珍しく働いたと思えば、やっぱり、このパターンだな……」

結局その日は冬矢一人が働いた。