息を吐いて、水を飲む。
やっぱ2曲連続で歌うと喉渇くな…。
目を閉じて、頭の中でメロディを刻む。
「ちょっと君いい!?」
「は、…俺ですか」
いきなり声を掛けられた。
たぶん30前後の、小綺麗な女の人。
「そうそう、君。
私こういう者なんだけど、名前は?」
そう言って名刺を出してきた。
その名刺には某テレビ局の名前が書いてあった。
音響担当、景山 千夏(カゲヤマ チナツ)、さん。
「蕪木 大和…です」
「蕪木くん…君、歌上手いね?」
「そうですか?」
他の人と変わんない気するけど…。
訓練したとかじゃないし。
手で促されてベンチに座る。
「実は私、今度いじめ根絶のドラマに関わることになってね。
それで人を探してたんだけど」
意味深に、俺を見る景山さん。
ここまでされれば俺だってわかる。
ただ、そう上手く行くはずないから。
「仕事でこんな所まで?
大変ですね」
「…ああ、違うの。
休みで実家に帰ってきててね、それで偶然蕪木くんの歌を聞いて」
……本気か?


