温泉宿に入ると、宿泊は満員で断れ、がっかりしたのだが、とりあえず温泉だけにでも浸かろうと、従業員の案内で露天風呂の入り口まで来た。

 しかし混浴だということを知り、和哉が難色を示したのである。


「やっぱり、ここの温泉止めない? 車走らせれば、まだあるんだし」


 どうやら混浴で私の裸を誰かに見られるのが、どうしても嫌だというのが理由らしい。そんな理由を長々と云われ、私は苛立ってしまった。


「せっかくきたんだし、いいじゃん。それにタオルで隠せば問題ないでしょ」


 そう云ったのだが和哉は黙り込んでしまい、温泉の入り口で立ち尽くしてしまったのである。

 私は余計苛立ちが募り何度も説得したのだが、そのせいで和哉は余計俯いた。


「もういいよ、私だけ温泉入るから」


 そして私は温泉の入り口に足を踏みいれたのだが、段差に躓き転んでしまったのである。何ともまぬけな話しだが、左手だけで咄嗟に身体を支え、ひねってしまったため、左手首に激痛がはしった。


「痛っ」


 その場でしゃがみ、右手で左手首を押さえたが、何かが変だった。

 そんな私を見た和哉が慌てて駆け寄り、心配そうな顔をしている。


「大丈夫か? 手首ひねったの? 俺が悪かったよ……一緒に入ろう。でも、タオル巻いてくれないか?」


「分かった。でも何か左手首、変だなぁ」


 私は激痛だったが、その時はそのうち治るだろうと思っていた。