「いや、もういいから。座って」
「あ、ハイ」
彼女は、素直にちょこんと椅子に座り直した。
「で、この資料を渡したいんだけど」
「あ、ハイ! お預かりします!!」
「じゃぁ、頼んだよ」
オレはクルリと背を向け、その場を去ろうとした。
「あ……」
「? 何?」
「あの……」
「え?」
彼女は何かを伝えたそうな目を、オレに向けてきた。
「営業課の、石上さん、ですよね……?」
「??? そうだけど?」
「あ。いや、何でもありません。資料、ちゃんと提出しておきますね」
カタカタカタ……
そう言うと彼女は、再びキーボードを必死に打ち始めた。
何処となく、影がある感じだ。
「失礼しました」
オレはフロアに一礼をし、総務課を後にした。


