コンコン。ガチャッ。
「失礼します」
総務課のドアを開け、中に入る。
出入り口側に一番近いデスクに座っていたのが彼女だった。
カタカタカタカタカタカタ……カタッ!!
彼女はパソコンに向かい、必死に伝票の入力作業をしていた。
「あの、ちょっといいかな?」
「えーとこれが、三星物産で、で、これが……」
そう言いながら彼女は、モニターと伝票にへばりついていた。すぐ横にいるオレの存在など、全く気がつかない。
「あの、忙しい所悪いんだけどさ」
「だからこれが……。こうなるから……。こうで……」
残念な事にオレの声は、彼女に1ミリも届いていない様子だ。
それにしてもコイツは、いちいち口に出さないとキーボードが打てないのか。
「あ……」
突如、彼女の動きが止まった。顔がみるみると青ざめてゆく。どーやら何かミスをしたらしい。
「あああ……」
そして、思いっきり頭を抱え始めた。
「バカだなぁ、あたし。バカって言う生き物は、あたしの事を言うんだろうなぁ……」
そしてこの女は、オレの存在にいつ気がついてくれるのだろうか。


