『生麦 生米 生玉子 生貝 生だこ なまりぶし』




それにひきかえ…愛しの蓮也さんと来たら…。




空港で別れて以来、むこうからはなんの連絡もない。




教えてくれるんじゃなかったの…? 声優のノウハウを…。




別れぎわの、タクシーから見た彼の笑顔…あれが忘れられない。




(会いたい…な)




顔が見たい…声が聞きたい…会いたいよ…蓮也さん…。




メール…しちゃダメかな…? でも…きっと忙しいよね…。




なやむこと一週間。ガマンの限界にきたわたしは、思い切ってメールしてみた。




30分かけて一生懸命考えたメール。送信ボタンを押せば、すぐに蓮也さんのとこに飛んでくけど…そのボタンが押せない。




「うぅ…どうしよう…押す? 押さない? う~…」




ケータイをギュッとにぎりしめて、顔を上げる。写真立ての中の蓮也さんは、変わらない笑顔で、わたしを見てた。




「…っ、おねがい…!」




送信ボタンを、心をこめて祈るように押す。一言でいえば「声優になるためには何をしたらいいの?」ってことをききたかったんだけど…彼の近況とか、わたしの練習のこととか、いっぱい話したいことはあったけど…そのすぐあとに返ってきたメールは、たった一言。




「ちゃんと学校に行って、しっかり勉強しろ」




これだけだった。




「こんなのあたりまえじゃーんっ!」って叫んだけど…うれしかった。そうだよね、こんな一ファンの子にいちいちメールなんてしてらんないよね。




たった一言でも…うれしい。蓮也さんが応えてくれたのが…うれしかった。小さな絆、小さなつながり。この返信メールを打っていた瞬間は、たしかに蓮也さんの心にはわたしがいたんだ。