淡い光の、桜の水面




満開の桜の木の下で




わたくし桜木陽菜(さくらぎ・ひな)




愛しの彼にさそわれました。




「なぁ…あんなヤツよりさ、俺とデートしようぜ?
俺さ、前からずっとお前のこと気になってたんだ」




「…っ」




耳元でささやかれた彼の声に、おもわず息を飲む。




ああ…呼吸ができない…。




ぞくっと




鳥肌がたつ。



 
「なぁ…いいだろ…? 行こうぜ…ふたりだけの楽園へ…」




「はぁ…んっ」



と、ハートのため息がもれる。




心臓がドキドキして




身体が火照る。




ハイテンションで叫びだしたい気持ちとはうらはらに




逆に身体はいうことをきかずに、とろけていく。




わたしはぼうっとした頭で




恥知らずな手をさしのべ




落ちてきたひとひらの花びらと




指先でキスを交わす。




「蓮也…




す…」




ブチッ




「あれーっ!? って、なにボケッと突っ立ってんの桜木さーん、ヘッドフォンぬけちゃったよー。いっしょに歩かないとダメじゃーん」




「わー、ごめーん! つい夢中になっちゃってーっ」




わたしはひっこぬけたコードを巻きながら、わたわたと優一くんに近づいていく。




「ったく、どんだけ好きなんだよ…その声優のこと…」