「ね、彼とはどうやって知り合ったの?」




「ん…と、もともと光紀さんとは幼なじみで小さいころ、よくいっしょに遊んでくれたんだ。わたしより2コ上だから…今26かな。いっつもわたしが『貧乏ザル』って言われてまわりの女の子たちに泣かされてて、そんなときいつもなぐさめてくれた。中学、高校とわたし女子校だったから、たまに道で会うたびに彼の成長ぶりにビックリして…もう気軽に『おにいちゃん』って呼べなくなって…そしたら今度はわたしがアイドルなんかに進んだから、なおさらお互いに距離を感じちゃって…」




すずが、しゅんとした顔をした。すずの横顔を見守りながら、話の続きを待つ。




「…ほら、あんたもこないだ来たからわかってると思うけど、うちの親父アル中でさぁ、後から来たあの人もパチンコざんまい、そんな二人をかかえて弟たちもいるから一日でも早く外に出てかせぎたかったんだよね。わたしがカワイコぶって演技をすればお金になるし、まわりはよろこんでくれる…ほら、演技をしている間って現実のイヤなことも忘れられるじゃん。そういう意味もあって、わたしはどんどん“演じること”をエスカレートさせていった。自分たちの身を守るためにね」




そっか…。わたしみたいに、ただ演じることが“楽しい”だけでやってる人たちばかりじゃないんだ。みんないろんな必要があって、やるべきことをやってるんだ…。




「ゴメン、わたしすずのこと誤解してた。男に媚び売ってたらしこむために演技してたんじゃないんだね」




「…ヒッデーいいぐさ…ま、女から見れば女性アイドルなんてだいたいそんなもんだよな…だから…彼の前に出ると、自分っていう存在がすごく恥ずかしくなる…他人をダマしているというか…彼の前だと、心が裸になって、隠せなくなる…」




「それって、すずが素直になれてるって、ことだよね。本来のすずの姿に戻るって、ことだよね」




「うん…だからこんなこと思うなんて、アイドルなんてやめたほうがいいのかなぁ、って思うんだよね」