いかにも観光地っぽい駅前をとおりすぎ、さらに山の奥へとすすんでいく。
夏のまっ盛りだというのに、気温がどんどんさがってすずしくなる。緑の木々の香りに、わたしの細胞ひとつひとつがよろこんでい る。
「ずいぶん山奥にあるんですね、その別荘って」
「ああ、あまり人がこないところ、じゃまにならない場所がよかったから。ほら、メンバーや仲間が集まりすぎると無茶しちゃうしな。酒が入るとみんなで演奏して騒いじゃうし」
「ふふっ、すっごい楽しそうですね!」
木漏れ日がちらちらと蓮也さんの顔をゆらめかせる。海にもぐっているかのような、きれいな光の反射。
「うーん、こんなところに住んでるだけで、すっごいキレイになれそう! お肌とか! 心まで!」
「ふっ、じゃあふだん都会に住んでる人間はみんな心が汚いのかよ」
蓮也さんが笑いながら言う。
「…でも、そうかもな。あそこにいると人と建物が多すぎて、すごく視界が悪くなる。たまにこうして広く見わたせる場所に来るのも悪くない。だからこうして、バンド専用の避難場所…みんなで落ちついて曲が作れるような場所が欲しかったんだ」
「今回のオフはみなさんいっしょじゃないんですか?」
「今回のオフは映画の撮影が終わったオレへのご褒美みたいなもんだからな。こないだのPVみたいに仕事でも、プライベートでも、全員集まることの方が少ないな」
そう言ってちょっとさびしそうな表情をする蓮也さん。
…仲間と会えないのって、さびしいですよね。
「でも…今回は特別だ。すごくうれしいよ」
「えっ…」
「陽菜と…お前とふたりっきりでゆっくりすごせるからな」
ボッ
顔が赤くなる~。ぱって蓮也さんから視線を外したら、また笑われちゃった。