「このPVもきっと人気でる。前作のときとはまた違ったファン層をつかめるだろうね、彼」




監督さんから差し出された紙コップのコーヒーを、ミルクと砂糖でうすめて飲む。




あ、前のときもこの人が撮ったんだ…やっぱり仲いいんだな。そっか、どこかで見たことあると思ったらこの人去年の音楽賞でなんか賞もらってたっけ。




「彼、ホント存在感あるし、絵になるよ。次の映画で、彼はもっと国民的な、人気者になれる。その素質があるし…そうさせてみせる」




「あ、映画にでるんですか、蓮也さん。アニメじゃなくて? じゃあ、啓一さんの映画で、初主演なんですね!」




「あ、彼、まだその話…そうか、まだ言えないんだったっけ。じゃあ知らないよね。7月から三ヶ月、ブエノスアイレスに行くの」




「え? ブエノスアイレス?! ってどこ? いやいや、えーっと、すっごい遠いとこですよね?! 三ヶ月も…あ、ちゃんと生きて帰ってこれるとこですよ ね?!」




「ははっ、失礼だなぁ。もちろんだよ。ただ、その期間は当分会えないってことだ、悪いけどね。それまでも、そのあとも、彼の心の支えになってくれよ。最近かなり人気出てきたし、あれでけっこう、繊細な所あるから」




彼の、支えかぁ…。いままで支えてもらうばっかりだったからなぁ…そういえばさっき見た姿も、顔は元気だったけど全体的にちょっとやせたような気がした。




「ん! がんばります!」




わたしは紙コップを左手に持ちかえると、グッと親指をつきだした。




わたしが、蓮也さんを支えるんだ!