駅の売店で棒つきキャンディーを買っている男がいました。


その男の名は綾倉 馨。


キャンディーを口に含み、壁に背を預けて眠たそうに目を細めながら柔らかいハニーブラウンの髪を揺らす。

馨の口からは甘いイチゴミルクの香り。
馨が目を閉じると馨の体全体からふんわりと香水のように甘いイチゴミルクの香りが漂った。


人は彼の顔を遠くから頬を染めながら見つめ、前を通る時はその香りにうっとりと目を細める。

馨はそんな人達をぼぉっと見つめながら口の中でキャンディーを転がす。


少し眠りにつこう、と目を閉じた時、柔らかい香りが自分の前を通り過ぎた。
その香りに馨はハッと目を開ける。


「っ!」


香りを辿って人を見るとゆるく巻いた長い黒髪を揺らしながら慌ただしく人混みの中を掛けていった。


馨は鼻に残る淡い香りを思い出しながらまた目を閉じた。