車内にあったロープで、泡を吹いて気を失った犯人を器用に縛り上げた。このまま警察に突き出そう。

私は武道はには全く無縁だが、男の急所は心得ている。人間必死になると凄い力を発揮するのだ。

戻りながら1人黒く微笑んだ。ざまあ見なされ、発情期少年よ。

「薺菜どこ行ってたのー?」

遠くから菜々子の声。少し迷って、

「タオル取りに行ったの」

菜々子には言わない。今はただ海を満喫しよう。泳ぎはしないが。

犯人がパトカーに押し込まれるのを見届けて、菜々子達の元に駆け寄った。

「うろちょろすんなよ、お前危なっかしいから」
「出来れば目の届く範囲で行動してくれよ」
「私小さい子供じゃないのに」

擽ったい。誰かに大事にされるのが嬉しくて温かくて。

でも私はまだ知らなかった。愛の意味を。涙の意味を。頼る事の意味を。