「先輩ぃいい! 何考えているんっすか!」
「いやシたそうだったからな」
「此処は保健室っすよ! 常識的にオカシイ!」
「何を言う。ホラ、これ。『肉食系俺様男子と天然少女のわぁおな物語』の百十頁を読んでみろ」
何処からか取り出した例のケータイ小説を俺に押し付けてきた。
だからケータイ小説は非現実的な話ばっかりなのに……俺はパラパラとページを捲って言われたページを開き、ざっと目を通す。
【第三章 野獣降臨】
―先輩のバカ!②―
先輩は私を強引に保健室のベッドに押し込んだ。体調なんて悪くないのに、先輩ったら何をする気なんだろ。ドキドキする私がいる。
「せ、先輩……私」
心臓が馬鹿みたいに鳴っている私がいる!
「期待しているんだろ? わーってる。すぐやっちまうから」
「そ、そんなこと思ってないのに! 此処は保健室だよ!」
「保健室だからこそ燃えるんじゃねーの?」
「うぅ……先輩の肉食……」
「相変わらず生意気な口だな。体は素直なくせに。どうする? 酷くして欲しい?」
「や、優しくが良い……。痛くしないで」
「ああ。俺様のテクニックを舐めるなよ」
(それからきゃあきゃあと流される主人公だった。まる)
………。
だからなんでこんなところでヤッちまうんだよ、この主人公達。
保健室に人はいないのかよ、廊下にも人はいないのかよ、ひ・と・は!
現実的に考えちゃいけないことくらい分かっているけど、やっぱ考えるだろ。見つからない方がおかしいだろ。
いいか、世の中、欲望という名の本能だけじゃないんだぞ。
清く正しく美しく生きることもまた人生だと、俺ァ思うんだ。うん。
「先輩……恋愛向けケータイ小説って、官能場面が大半なんっすか?」
ついつい相手を白眼視してしまうのは、俺の性格が悪いせいだろうか。
「なッ! 空、ケータイ小説を舐めるでない。恋愛からホラーからファンタジーから、ジャンルが多岐にわたって存在している。官能ばかりなど言語道断。ケータイ小説だからと言って軽く見ていると痛い目に遭うぞ!
まったく近頃の奴はケータイ小説を馬鹿にする傾向にある。
まあ確かに普通の小説と比べると文字数も表現も劣っているかもしれない。内容も薄いかもしれん。
しかし、ケータイ小説にはケータイ小説の良きところがある。それを認めた先に、新たな文学の道が切り開けるとあたしは思うのだが」



