逃げるのは簡単だ。
今の恐怖に目を逸らすのも簡単だ。
だけどその後に噛み締める後悔の念を消すことはとても難しい。
俺自身、そんな苦い気持ちを味わうなんてごめんだ!
ちったぁ男らしいところ見せろ、豊福空!
俺は自分の頬を叩いて気持ちを入れ替えると、ゆっくりと一歩を踏み出した。
なるべく下を見ないように一歩っまた一歩……嗚呼、恐いってもう! 足が震えてらぁ! こえぇええよ!
「馬鹿、空! 無理をするな!」
「鈴理先輩、今話し掛けないで下さいっす! 話し掛けられたら俺、此処が倉庫の上だって改めて思い知らされっ……倉庫の上……高い……うわぁあああ何も考えない、考えないィイイイ!」
半狂乱になりながら俺は向こうの木に目を向けた。
そこには細い枝にぶら下がっている茶色い巾着袋。
ぶら下がっている巾着袋が重いのか、細い枝は大きくしなっている。
今にも落ちそうだな。
なんでわざわざ細い枝にぶら下げたんだよ、コノヤロウ。
早く取りに行かないと……先輩の携帯を疵付けるわけにはいかないんだって。
けれど情けないことに俺の一歩の幅が小さい。
し、仕方が無いんだよ! 恐いんだから!
どんなに意気込んでも恐いもんは恐いんだよ。
勇気は振り絞っている方だよ、褒めて欲しいくらい勇気出しているよ!
ブワッ―。
突然、突風が吹いた。
「うわっ!」
俺は思わず立ち止まる。
風で吹き飛ばされることは無いけど、落ちてしまうような錯覚に襲われる。
やっぱ恐い。すんげぇ恐い。高いところは恐い。
此処から落ちちまうんじゃないのか、そう思っちまうくらい高いところは恐い。
今すぐ此処から逃げたい……よし逃げよう、とっとと携帯を取ってから直ぐにこんなところ逃げ、あっ!
俺は思わず駆け出した。此処が何処かってのも忘れて。
何故ならさっきの突風で巾着袋がズルズルと枝から落ちそうに。
ちょ、ストップストップ!
携帯が地面に叩きつけられちまったら俺、
「そ……空、止まれ!」弁償できないって!
「空くん危ないって!」それにあれは先輩が、
「馬鹿! 空、止まれ! それ以上進むとっ……ちっ、退け。あんた達!」
貸してくれた大事な携帯ッ!



