前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―






「そーらー!」


下から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

嗚呼、下からってのがまた俺の恐怖心を煽る。

頭がくらくらしてきた。

此処は誰? 俺はどこ? いや違った。

此処はどこ? 俺は誰? 此処は体育館裏にある倉庫の上。


俺は豊福空だ。


うん、大丈夫、まだ正常だ。


だけど、もう下りていいっすか……此処に突っ立っているだけで超恐いんっすけど。親衛隊とか、そんなのもうどうでもいいくらい恐いんっすけど。


「空、今助けに行く! 無理をするな! 今そっちに行ってやるから!」


その声に俺は我に返った。

恐る恐る下に視線を落とせば(あぁああ。地面が遠いよぉお!) 、安心しろと声を掛けてくれている鈴理先輩。


彼女は木によじ登ろうとしていた。

それを見たフライト兄弟が慌てて自分達が行くからと、親衛隊が怪我をするかと必死に止めている。


なんでフライト兄弟があそこにいるんだ?

そんな疑問はさて置いて、もしかして俺は先輩に助けられようとしている?


そんなのカッコ悪い。

皆がいる前で先輩に助けられるなんて絶対に駄目だ。


それにさっきはどうでもいいと思ったけど、これくらい一人で乗り越えないと自分が情けない。


確かに俺は高所恐怖症だよ。

高いところにトラウマがあるから、すんげぇ高いところが嫌いさ。


窓側の席に座れないくらい高いところは嫌いなんだ。


でも、だからって此処で逃げてどうするよ。


いつも鈴理先輩のアタックに逃げているし、押し倒されているし、食われそうにはなるし……自分男? と疑問に思うこともあるけど。


今此処で逃げれば、一生後悔することになる。


「リタイアしても良いぞ。豊福空」


柳先輩の声に俺の中の志気が高まった。


べつにこれはな。

親衛隊に認められたいわけでも、リタイアしたことで他人にどう見られるのか恐いってわけでも、恋人のことでどうのこうので言われるのが嫌だからってわけでもない。


此処で逃げたら、先輩に対しての気持ちを否定してしまう。

気になりつつある先輩への自分の気持ちを否定してしまう。そんな気がするんだ。