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さて一方、恋人を見上げていた鈴理は彼の様子がおかしいことに気付いた。
彼は先ほどから屋根の上に突っ立ったまま動こうとしないのである。
目に見えるほど体を震わせているものだから、少しならず心配の念を抱く。
一体全体どうしたんだ。
屋根の向こうに生えている木に歩み寄って携帯の入った巾着袋を取るだけだろ。
まさか親衛隊をアッと言わせるような演出でもしようというのか?
しきりに首を傾げていると、
「そーらー!」
「空くーん!」
背後から彼の名を呼ぶ声。鈴理が振り返るとそこには彼の友達、確かフライト兄弟と呼ばれていた男子生徒二人がこちらに駆け寄って来た。
多分、彼のことを心配してやって来たのだろう。
フライト兄弟のアジと呼ばれている生徒が状況を見るなり、素っ頓狂な声を上げた。
「空がなんで屋根にッ、あいつ、高いところ駄目なのに!」
「何? それは本当か?」
初めて知った彼の事実にアジは頷く。本人が語ったわけではないが、傍から見ても彼は高いところが大の苦手。つまり高所恐怖症なのだ。
エビと一緒に彼を観察していたのだが、空は席替えの際、窓側の席に当たってしまい自分達に席を替えてくれるよう必死に頼み込んできた。
廊下を歩く時も極力は窓側を歩かないよう注意を払っている。
窓の向こうに見える景色を指差した時も、空は遠巻きに見るだけ。
窓に歩み寄ろうとはしなかった。
そして極め付けにこの状況。
倉庫の上に突っ立って動けないのは高いところに怖じ切ってしまっているからなのだ。
極度の高所恐怖症なのだろう。
「空くん! しっかり!」
固まってしまっている空にエビが声を掛けると、
「高いところは大好きなんだ。俺は空も飛べるはずだ」
奇怪な返答が返ってきた。
彼の中の恐怖度が平常心を崩しているようだ。
鈴理は舌打ちを鳴らした。
どうしてそれを早く言わないのだろう! 誰にだって得意不得意があると言うのに、もしかしてこれを知って親衛隊は彼に試練とやらを試したのか? だったら卑怯極まりない!



