ビシッと先輩に敬礼すると俺は親衛隊の嫌味ったらしい眼差しを振り払って木によじ登り始める。
大丈夫、下を見なければいいんだ。
下を見なければちょちょいのちょいで試練をクリアできる。
運動神経は良いんだ。
木に登ることは苦じゃない。
……嗚呼、駄目だぞ。俺。
下を見たら絶対に駄目だぞ。
此処は地上だ。大丈夫なんだ。
俺は俺自身に言い聞かせながら、どうにかこうにか木によじ登り終えると倉庫の屋根に飛び移った。
それだけでもう汗がダッラダラ。心臓バックバク。
だ、だ、大丈夫、倉庫の屋根は平坦だ。
地面だと思えば大丈夫。大丈夫。だいじょ……俺の視界に俺を見上げる鈴理先輩や親衛隊が飛び込んできた途端、恐怖心が襲ってきた。
泣きたいやらパニックになるやら、俺は平常心を失いつつあった。
ただただ占める気持ちは先輩にカッコ悪い姿は見せたくない。
だから必死に高いところラブ高いところラブ高いところラブ、と念仏のように唱える。
もうこうでもしないとヤッてらんねぇ! 俺は高いところ好きなんだコノヤロウ! 足がガクガクなんだよ、チクショウ!
息が上手くできないよ、情けねぇ!
仕舞には倉庫の屋根の上に突っ立ったまま動く事ができなくなった。



