これならあたしでも簡単にできそうな試練だ、と鈴理先輩はやや落胆気味。
もっと凄いことで試すとでも思ったんだろう。
「ケータイ小説じゃもっと凄い試練が待ち受けているっていうのに」
なんて間の抜けた試練だと先輩は愚痴っている。
確かにやり甲斐の無い試練かもしれない。
けれど、俺は息が詰まりそうだった。
木に登って屋根に飛び移る。
そんなこと俺ができるわけないじゃないか。
だって、だって俺……木に登るってだけでも……。
誰にも気付かれないよう身を震わせていると、極上に意地の悪い笑みを浮かべて高間先輩が俺の顔を覗き込んできた。
「さあて豊福空。どうする? 僕等の試練を受けてみるか?
ただ木に登って屋根に飛び移り、物を取るだけの簡単な試練だぞ? それができたら僕等親衛隊は君と鈴理さまの関係に、癪だけど一切口を出さない。約束する。『お守り隊』を改名して『見守り隊』にしよう。
逆を言えば、これさえもできなかったら僕等は君なんて一切認めない。
鈴理さまがどうこう言おうと、僕等は君と鈴理さまの仲を引き裂くからな!」
そう脅してくる高間先輩を鈴理先輩がギロッと睨む。
瞬間、高間先輩がポッと顔を赤らめた。睨まれても嬉しいって……ほんとド変態じゃないか。
俺は苦笑いを浮かべながらも嫌な汗を掻きっ放しだった。
どうする。どうするよ俺。
もしもここで逃げたりしたら、腰抜けの臆病者じゃないか。
先輩にだって失望されるかもしれない。
それは嫌だ。
俺だって男を見せたい。
でも俺、俺、おれ、木に登ることも、屋根に飛び移るその行為も、親衛隊が用意した試練すべてが恐くて怖くて。
先輩や他の皆からしたらなんて事の無い試練。遣り甲斐のない試練。
だけど俺には……俺には……。
親衛隊は、知っていて俺にこの試練を用意したんだろうな。
チクショウ、何なんだよ。ニヤついてくる親衛隊が腹立たしい、すぐに動けない俺も情けない。悔しい。
「空、どうした?」
「え、いえ! なんでもないっすよ!」
ダンマリになっている俺を不思議に思った鈴理先輩が優しく声を掛けてきてくれる。
虚勢を張って、なんでもないと笑って見せた。
駄目だ、先輩の前じゃ恐いなんて言えない。言えるわけがない。カッコ悪いところは見せられない!



