エビくんが説明する前に鈴理先輩がその手紙を受け取って目を通す。
瞬く間にグシャリとそれが握り潰された。
「な・ん・だ・こ・れ・は!」
くっきりと青筋を立てている鈴理先輩、恐い。普通に怖い。
「あぁああああたしは、こんなに乙女らしい文は書かん! 『来ないと別れちゃうんだからね!』なんてまさに乙女ッ……攻め女の名が廃る!誰が別れるなんぞ思うか! 誰だ、こんな手紙を寄越したヤツはっ。しかもあたしの名で語るとは不届き千万もいいところだ! 空、まさかあんた、これをあたしが書いたなんて思ったんじゃ」
「お、思っていないっす! 先輩、こんな阿呆な文章は書かないでしょっ、うひゃあ!」
み、耳にかぶりつかれた。
おかげでっ……変な声出しちまったよ、キショイよ、俺。
今の声を出したことに多大な羞恥が。
うん、羞恥で今なら軽く天国にいけそう。地獄かもしんねぇけど。
赤面している俺に対し、「嘘はついてないようだな」と先輩は一つ頷いている。
今のって真偽を確かめるための噛み付きだったんっすか。どういう嘘発見器法っすか、それ。
先輩は俺を縛っているロープを解いてくれた。
そして体育館裏に行こうと誘ってくる。
俺は瞠目した。
だって先輩が行く必要ないんだぜ?
行くのは俺だけで十分。
俺が油断していたから貸してもらっている大事な携帯を盗まれることになっちまったんだし。
なのに、彼女は素知らぬ顔で俺の腕を引いて歩き始める。
「あの先輩」
声を掛けると、
「手紙の主を突き止めなければな」
先輩は唸り声を上げた……よほど、オトメチックな文面が腹立たしかったんだろうな。
俺は引き摺られるように鈴理先輩と一緒に体育館裏へと向かった。
あれほど俺を止めていたフライト兄弟も鈴理先輩と一緒なら大丈夫だと判断したのか、頑張れの意味を籠めて手を振ってきた。
小さく手を振り返す。
何事もないことを願いながら。



