これからあと十分程度で五時限目の授業が始まる。
それまでに教室に帰らないと。
教室に戻る間、次の時間が移動教室だという先輩と一緒に途中まで歩いた。
鈴理先輩は友達の川島先輩や宇津木先輩じゃなく、わざわざ俺を選んで途中まで一緒に歩いてくれている。
なんだか、それが妙に嬉しいやらくすぐったいやら。
……一緒に歩いてくれる雰囲気は良いんだけど、さ。
その、会話がちょっと。
「空。これからの授業をサボって保健室に行かないか? 保健室ならばベッドというものがある。準備万端ではないか」
「な・に・が、準備万端っすか。嫌ですよ、次は英語なんっすから。サボったらすぐ皆に置いてかれます」
このように先輩が大音声で熱弁するものだから、俺、身を小さくして廊下を歩く羽目になっている。
鼻息を荒くして先輩はまだ語りを熱くしている。
「英語の代わりに保健の授業を受けると思えば良いではないか。
いいか空、ここは日本なんだから英語なんてもの程ほどで良いじゃないか。日常会話に英語を使うか? 普段の読み書きに英語が出てくるか? 使うか? 使わないだろ。
それより保健の授業の方がよっぽど身近ではないか! 保健室で初エッチ、燃えるじゃないか!」
不謹慎なこと言うのが本当に好きだな、鈴理先輩。
さすがは肉食系女子。
油断ならないことに先輩は男……じゃない、不意打ちをするように俺に女前なところを見せてくれる。
別れる時に先輩、堂々人前で、大切な事だから二回言うけど堂々と人前で俺にキスしてきたんだ。
皆が大注目しているというのに、なんてことをしたんだ。
赤面する俺に、先輩はあどけない笑顔で言った。
「離れていても空があたしを忘れないおまじないだ」
これを言われて腰の砕けない男はそういないと思う。
おかげで俺は教室に戻ってからも先輩のことで頭一杯。
授業中も先輩のことで頭一杯だった。
卑怯だよな、そういう甘い口説き文句。
空き時間も顔に熱が引かないものだから、フライト兄弟にからかわれた。
相当顔が赤いんだと思う。
「煩いな」
突っ返しながらも、フライト兄弟に強くは反論できなかった。
そんな俺をアジくんもエビくんも面白おかしそうに見てくる。



