「先輩。まずは健全なお付き合いからっすよ。オアズケっす」


「なっ、どれだけあたしがオアズケをさせられていると思っているのだ! 折角道具も揃えたというのに。
ええい、こうなれば実力行使だ! 攻め女は攻めて攻めて攻め尽くす種族だからな。逃げれば逃げるほど後々が恐いぞ、空ぁー? 所有物は所有物らしくした方が身のためだぞー?」


捕まえたら、一生忘れられないような濃厚な情事にしてやる。

意気込む鈴理先輩に本能が警鐘を鳴らしている。


先輩は危ない。

直ぐに逃げないと、俺、ヤラれちまう!


ジリジリ歩み寄ってくる先輩に「あははっ」と愛想笑いを向けながら、俺は一目散に倉庫を飛び出した。

勿論、先輩は後を追い駆けてくる。


「こら空! 晴れて恋人になった女から逃げるヤツが何処にいる!」

「ここにいます、先輩の猛獣! 少しは健全的な恋愛をしようと思わないんっすか!」


「攻めてナンボの恋愛だろ!」

「攻め方に問題ありっす!」


ギャンギャン騒ぎながら逃げる俺と追い駆ける鈴理先輩。

それは付き合う前と変わらない光景だった。

別に付き合わなくてもいんじゃないか? そう思うほど、当たり前の光景。


周囲の生徒達から注目を浴びながら、俺と先輩はいつものように追いかけっこを繰り広げていた。


だけど……やっぱ今までと違う関係にも光景にもなっていくんだと思う。


だって俺は逃げていても先輩の恋人になったんだから。


「いいか空。あたしのカノジョになったのだから、逃げることは禁止だ!」

「彼氏っ、先輩。俺は彼氏!」


「馬鹿者。攻め女のポジションは常にカレシと決まっているのだ!」


……ただし恋人の在り方に問題はある。

今後のために、要話し合いの余地がありそうだ。