「ああそうだ、空。移動の間、少しは勉強してろ。ばあや!」
顔を引き攣らせていると鈴理先輩が教育係のお松さんを呼んだ。
サッと俺等の前に現れるお松さんは(この態勢めっちゃ恥ずかしいんだけど!)、素早く俺に本を手渡して姿を消した。
相変わらずのお松さん、何者なんだ。
お忍びの末裔なんじゃねえの?
疑念を抱きながら俺は手渡された物に目を落とす。
渡されたのは本っぽいんだけど。
タイトルは何々……。
『肉食系俺様男子と天然少女のわぁおな物語』
うーん、これは所謂恋愛小説ってヤツっすか。ヤツっすよね。
取り敢えず本を開いてみる。
うわ、横文字で字が並んでいる。読みづらっ!
もしかしてこれはケータイ小説が文庫本になったヤツか?
先輩がハマッているヤツだよな。
俺、携帯なんて持ってないからどういうものか分からないけど。
ちょっと本に気を取られている隙に、先輩が場所の移動を始めた。
ハッと我に返った俺は「下ろしてください!」先輩に必死に訴える。
腕の中で暴れてやりたいけど、先輩に怪我させるかもしれないから下手に暴れられない。
ギャンギャン騒ぎながら身を捩っていると、
「あ、噂のカップル。ついに捕まったんだ」
通り過ぎる生徒達の談笑が聞こえてきた。
そこの人達、談笑するような話題じゃないんだよ、これ。俺に危機が迫っているんだよ。
あ、今、そっちのヤツ、俺のことを鼻で笑いやがったな。
俺が望んでお姫様抱っこをされていると思っているのか? ンなわけあるか!



